まつきあゆむがニューアルバム「1億年レコード」を2010年1月1日にリリースした。さっそく手に入れて繰り返し聴いてるけど、これとてもいいと思います。

部屋で今日はどんな音楽を聴こうかって考えるときに、このレコードが正解になってくれる場合が多いような気がする。音楽で踊りたいとか暴れたいとかじゃなく、部屋で1人でぼんやりしてるときの気分にすごく似合ってる。音楽を選ぶときに一番大事なのはなんといっても気分だと思うので、歌詞がどうとかアレンジの精度がどうとかそういう細部より、もっとざっくりと、その音楽が持っている空気だったり、温度や湿度がしっくりくるかどうかのほうが大切で。まつきあゆむが1人で自宅で作ったこのレコードは、おれが自分の部屋で聴くのにちょうどいいみたいです。

ところで、まつきあゆむはメジャーレーベルと契約せずに活動しているアーティストで、それどころかインディーズレーベルにも所属してないし、事務所もないし、要するにあらゆる組織に所属していない。そんな彼のニューアルバムがなぜぼくの手元に届いたかというと、彼個人が発売元になって、直接ファンに音源を販売しているからなんですね。

「1億年レコード」は28曲入りで2000円。聴きたいと思った人がまつきあゆむにメールしてお金を振り込むと、まつきあゆむ本人からZIPファイルのダウンロードパスが送られてきて購入完了。ダウンロードファイルを解凍すると320kbpsのMP3ファイルと、歌詞やジャケットのPDFファイルが出てきて、あとはPCやiPodに突っ込んで聴くだけ。聴き手と作り手が直接つながってる。いやー、よく考えたらそれでいいもんね。こんなシンプルな仕組みで、おれは今こうやって聴きたい音楽を聴くことができている。

以下にまつきあゆむが12月に発表した所信表明的なテキストを引用します。

僕みたいな音楽家にとって、従来の大規模音楽ビジネスの中にいるとこっちもむこうもお互い機能しないなって最近思ってました。
必要なのは、本当に欲しい録音機材を手に入れる事や創作したり録音するための時間をある程度自由にとったり、売りたい値段で売りたい時に音楽を売ったり(あるいは速攻でフリーダウンロードにしたり)、そういうすごい単純な事だけです。
実態のない大勢の誰かに自分の大事な音楽を投げつけてみるより、今こそ、僕の音楽に興味を持った人へ1対1でそれを手渡ししたいと思ったんです。
そのために僕はインターネットとか肉体的に使えそうだぞ、と。

だからダブルアルバムに関しては、どこも通さず自分で売ります。著作権も僕に帰属し、自分で管理します。音楽をダイレクトに聞く人に渡していきます。

さらに、ああ聞いて良かった、もっと聞かせろ!なんか見せろ!と思ってる人からダイレクトにお金を集めて、その基金を活動資金にしようと思います。

(中略)

リスナーと音楽家で限りなくダイレクトに行われて、間でよくわからない場所へ資金が還元される事なく自分自身に戻ってくる仕組みが欲しいなとずっと思ってました。

素晴らしいと感じた音楽とかアイデアとか「体験」自体にフェアに対価を払う事ができる、当たり前で健全なシステムを自分で作ってそれを堂々とやろう。

ケヴィン・ケリーという人は「1000人のハードコアなファンがいればアーティストは食っていける」と言ったらしいけど、まつきあゆむが今やろうとしていることもそれに近いのかも。自分の音楽を求めるリスナーに作ったものをすぐ届けたい。そんでいくばくかの活動資金を手に入れて音楽制作を続けていきたい。インターネットをうまく使えば、従来型の大規模音楽ビジネスの仕組みを通さなくてもそれができてしまう。レコーディングは全部自宅で完結させられるから、音源を作るためにそれほどたくさんのお金が必要なわけでもないし。

まつきあゆむが「自宅録音家」を名乗って世に登場した2005年当時の“自宅”は今よりももっと閉ざされた場所だった。アーティストは頭の中からあふれ出す音楽をせいぜい数10平米のその空間に満たして、部屋に広がった音をありったけの機材を使ってかき集めてCD-Rにパッケージするしかなかった。でもこのほんの4、5年で“自宅”の持つ意味はずいぶん変わった気がする。友人たちはTwitterという薄い壁1枚へだてたすぐそこで暮らしているし、気になってたライブの空気をUstreamの生中継で感じることもできる。DJが自宅のリビングでかけてる音楽が、どこかに住む見知らぬ誰かを踊らせていたりもする。

まつきあゆむも自分がレコーディングしている姿をUstreamでだだ漏れ公開してみたり、Twitterのタイムラインを歌詞にした曲を作って、フリーダウンロードで速攻発表したりしていて。アイデアと瞬発力を最大限に発揮して、本人がちゃんと面白がりながらやってる感じがとてもいいと思う。

今後、まつきあゆむはこのアルバムリリースを大きなきっかけにして、ファンと直接対話しながら、自立した形の音楽活動を実践していくことになると思う。過去にもインターネットを効果的に使ってきたミュージシャンはいたけど、これからは“アーティスト本人がやる”ということがより重要になってくるはず。ネットプロモーションを担当するスタッフがいて、そのスタッフにおまかせっていうんじゃなくてね。やっぱりアーティスト本人がブログなりMySpaceなりTwitterなりUstreamなりを使って、聴き手と直接コミュニケーションをとっていったほうが断然面白い。特にロックンロールやポップミュージックは、時代の空気をギュッとつかんでパッとぶん投げてなんぼってところもあるし。聴き手の声を聴かず、ビジネスの話からも距離を置くような“孤高のアーティスト”が生み出す音楽に、たぶん自分はだんだん興味を持てなくなっていくだろうという気がしている。

あと、最近は「CDが売れない。これからはライブの時代だ」なんて話もよく聞くし、それはデータ上は正しいんだろうけど、そういうのも正直もうどうでもいい気がしてきた。ライブハウスで生演奏を聴く行為と、アーティストが自宅で作った音源をできた瞬間に聴く行為と、その2つの間にいったいどれほどの違いがあるのか。インターネットは、もしかしたら実演と録音芸術の境目をもあいまいにしていくんじゃないかと感じ始めています。

(Reblogged from tayu-tau)

Notes

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